トランス脂肪酸とは？含まれている食品や日本での取り組みについて

そんな悩みにお答えします。

油脂に含まれる「トランス脂肪酸」。できるだけ避けたいとは思っていても、どんな食品にどれくらい含まれているのかイメージしづらいですよね。

実は、一概にトランス脂肪酸といっても、天然と人工のものがあり、それぞれ懸念すべきポイントが異なります。

また、世界ではさまざまな規制があるのに対して、日本ではそれほど厳しいルールが存在しません。

そのため、お菓子・パン・揚げ物といった身近な食品にも多く含まれていることがあり、知らず知らずのうちにたくさんの量を口にしてしまう可能性があります。

そこで本記事では、「トランス脂肪酸」とは一体なんなのか？気をつけるべき食品や、世界と日本の取り組みの違いなどを解説します。

トランス脂肪酸とは？

脂質を構成する脂肪酸には、炭素間の二重結合をもたない「飽和脂肪酸」と、炭素間の二重結合をもつ「不飽和脂肪酸」の2種類に分かれます。

「飽和脂肪酸」を多く含む食品は、お肉やバター、ラード、ココナッツオイルのような常温で固体（または半固体）の油によく見られるのに対し、

「不飽和脂肪酸」を多く含む食品は、植物油や魚油のように、常温で液体の油であることがほとんどです。

アブラには常温で固まる「脂」と、常温で液体の「油」があります。「脂」の主な成分は「飽和脂肪酸」と呼ばれるもので、肉やバター、ラードなど動物性の脂に多く含まれます。

一方、植物や魚の「油」に多く含まれるのが「不飽和脂肪酸」と呼ばれます。

引用：飽和脂肪酸・不飽和脂肪酸とは？適切な摂取量について

さらに「不飽和脂肪酸」には構造の違いによって、水素が同じ側にあるシス型と水素が反対側にあるトランス型の2種類に分かれます。

トランス脂肪酸とは、トランス型二重結合という構造をもつ不飽和脂肪酸の総称です。

不飽和脂肪酸には、炭素間の二重結合のまわりの構造の違いにより、シス型とトランス型の2種類があります。

引用：農林水産省＞トランス脂肪酸ってなんだろう？

魚油やオリーブ油などに含まれる天然の不飽和脂肪酸は、ほとんどが「シス型」です。

一方、「トランス型」は天然のものと人工的に生成されたものがあり、過剰摂取はさまざまな影響があると懸念されています。

天然のトランス脂肪酸

一般的にトランス脂肪酸といえば、人工的に製造されたものを指しますが、

実は牛・羊などの反芻（はんすう）動物には、胃の中の微生物の働きによってトランス脂肪酸が自然につくられます。

そのため、牛肉や羊肉、牛乳やチーズ、バターなどの乳製品のなかも微量に含まれており、これらは「天然のトランス脂肪酸」として知られています。

天然の不飽和脂肪酸は、通常シス型で存在します。しかし、牛や羊などの反芻（はんすう）動物では、胃の中の微生物の働きによって、トランス脂肪酸が作られます。そのため、牛肉や羊肉、牛乳や乳製品の中には微量のトランス脂肪酸が天然に含まれています。

引用：農林水産省＞トランス脂肪酸ってなんだろう？

人工のトランス脂肪酸 (部分水素添加油脂)

一般的に問題となっているトランス脂肪酸は、人工的に生成されたものであり、主に「部分水素添加油脂（部分硬化油脂）」のことです。

部分水素添加油脂とは、液体の植物油などから部分的に水素添加(硬化処理)を行い、半固体または固体の状態にした油脂を指します。

特に、マーガリン・ファットスプレッド・ショートニングなどに含まれることが多く、これらが使われている加工食品は、トランス脂肪酸濃度が高い可能性があります。

油脂の加工・精製工程のうち、常温で液体の油脂から半固体、固体の油脂を作り出す水素添加（硬化処理）や、好ましくない臭いや不純物を除去するために油脂を高温で加熱する脱臭を行う際に、不飽和脂肪酸中のシス型炭素－炭素二重結合の一部がトランス型二重結合に変化することがあります。

〜中略〜

部分的に水素添加された油脂を用いてつくられたマーガリンやファットスプレッド、ショートニングや、それらを原材料に使った菓子類などの食品、部分的に水素添加された油脂で調理された揚げ物などに、トランス脂肪酸を含んでいるものがあります。

引用：食品に含まれるトランス脂肪酸の由来

酸化による品質劣化がしにくい油脂や、特定の温度で融ける油脂など、様々な特徴を持つ油脂を作ることができます。この技術を「水素添加（硬化処理）」といい、この方法で製造された油脂を「水素添加油脂」といいます。水素添加油脂には、不飽和脂肪酸の全てを飽和脂肪酸にした「完全水素添加油脂」と、不飽和脂肪酸の一部を飽和脂肪酸にした「部分水素添加油脂」があります

引用：食品に含まれるトランス脂肪酸の由来

国際機関の取り組み・日本が規制しない理由

2003年、世界保健機関(WHO)と国連食糧農業機関(FAO)の合同専門委員会は、トランス脂肪酸の摂取量を総摂取エネルギーの1%未満に抑える目標を示しました。

さらに、2018年WHOは、工業的に生成されるトランス脂肪酸を減らすための行動計画「REPLACE」を公表し、各国の取り組みを支援しています。

WHOが成人に対して推奨しているのは、トランス脂肪の摂取を総エネルギー摂取量の 1 % 未満に抑えることであり、これは 2000 カロリーの食事であれば 1 日あたり 2.2 g 未満となります。

引用：日本WHO協会>トランス脂肪酸

一方、日本では2005年〜2007年度の調査の結果、日本人の平均的なトランス脂肪酸摂取量は、WHOの目標基準である1％に相当する量の半分以下であると報告しており、全体として影響は少ないと考えられています。

また、令和4〜5年度の調査でも、食品に含まれるトランス脂肪酸の量は減少傾向にあることが報告されています。

これらの理由から、日本では規制や表示義務はなく、各企業が個別の取り組みを行うのみとなっています。

日本人の平均総エネルギー摂取量である1900 kcal/日の0.44～0.47%に相当します^*。この結果は、世界保健機関（WHO）が設定したトランス脂肪酸摂取量の上限量である、総エネルギー摂取量の1%に相当する量の半分程度です。

引用：農林水産省の取組

農林水産省は、令和4・5年度に、食品中の脂質、トランス脂肪酸及び飽和脂肪酸の含有実態を調査しました。その結果、平成18・19年度及び平成26・27年度の調査結果と比較して、トランス脂肪酸が全体的に減少傾向にあることを確認しました。

引用：令和4・5年度調査結果（穀類加工品、油脂類、菓子類、調味料・香辛料類）

食品からトランス脂肪酸をとることによる日本人の健康への影響について、食品安全委員会〔外部リンク〕は、

1. 「通常の食生活では、健康への影響は小さい。」

2. 「ただし、脂質に偏った食事をしている人は、留意する必要あり。」

3. 「脂質は重要な栄養素。バランスの良い食事を心がけることが必要。」

引用：食品中のトランス脂肪酸の低減

・参考URL： WHO REPLACE Trans Fat

世界の取り組み

世界の多くの国ではWHOの報告を受け、トランス脂肪酸の表示義務化や、食品中濃度の上限規制を導入しています。

EU・スイス・マレーシアでは食品中のトランス脂肪酸濃度の上限値を設定しており、アメリカ・カナダ・シンガポール・台湾などでは部分水素添加油脂の使用が規制されています。

また、トランス脂肪酸濃度の表示が義務付けられているのは、アメリカ・カナダ・台湾・香港・フィリピン・中国・韓国などで、欧米だけでなくアジアの一部の国でも実施されています。

日本企業の取り組み

日本では、トランス脂肪酸に関して法的な表示義務や規制はありません。

しかし、企業によっては自主的な取り組みが行われていることがあり、ここではその一部を紹介します。

企業名	取り組み内容	参考ページ（ 外部リンク）
パスコ	2006年2月以降、パンや菓子に使用する油脂をトランス脂肪酸の含有量が少ないものに順次切り替え	「トランス脂肪酸低減」に取り組んでいます（栄養成分表）
セブン&アイ・ホールディングス	トランス脂肪酸の低減を実施、一部商品にトランス脂肪酸濃度を表示	トランス脂肪酸の低減
明治	家庭用マーガリン類における「部分水素添加油脂」不使用、該当商品のトランス脂肪酸量を公開	明治のトランス脂肪酸量低減への取り組み
スターバックス	公式サイトにてトランス脂肪酸量を公開	栄養成分情報
フランソア	製品100gあたりトランス脂肪酸0.3g未満	素材志向のパンづくり
ミスタードーナツ	2007年12月からトランス脂肪酸値を抑えたオイルを採用	安全・安心への取り組み　低トランス脂肪酸オイル
ブルボン	一部商品を除き、100ｇあたり0.3ｇを下回る量に低減	トランス脂肪酸に対するブルボンの考え方を教えてください。

まとめ：お菓子・パン・揚げ物に注意

トランス脂肪酸についての解説と気をつけたい食品、世界の規制状況や日本の取り組みなどを紹介しました。

トランス脂肪酸には、天然と人工のものがあり、天然のものは牛肉や乳製品などに含まれていますが、微量のため問題になることはほとんどありません。

気をつけたいのが人工のトランス脂肪酸であり、特に「部分水素添加油脂」が含まれがちなマーガリン・ショートニング・ファストスプレッドやこれらを含む加工食品には注意が必要です。

例えば、お菓子やパン、揚げ物などによく使われますので、普段から脂質の多い食事をしている方、加工食品を頻繁に摂る方は気をつけましょう。

日本では残念ながら、食品に対するトランス脂肪酸濃度の表示義務がありません。しかし、一部の企業では詳細情報を公開していますので、気になる方はチェックしてみてください。